
土地家屋調査士と測量士は、どちらも「測量」に関わる国家資格ですが、その役割や業務内容には大きな違いがあります。資格取得を検討している方の中には、「違いがよく分からない」「自分に向いているのはどちらなのか迷っている」という方も少なくありません。キャリア形成を考える上では、それぞれの資格の特徴を理解しておくことが重要です。
そこで本記事では、業務内容や必要なスキル、資格取得の難易度、将来性などの観点で両資格の違いを分かりやすく解説します。記事の後半では、両資格を取得する「ダブルライセンス」についても紹介しているので、自分に合った進路を見つけるヒントとしてぜひ最後までご覧ください。
<この記事の要点>
- 土地家屋調査士は「不動産の表示に関する登記」の専門家、測量士は「測量」の専門家
- 土地家屋調査士と測量士は、仕事内容や必要なスキル、資格の難易度、業界動向、キャリアパスなどが異なる
- キャリアの選択肢の一つとして、両方の資格を取得するダブルライセンスも有効
目次
土地家屋調査士とは?

土地家屋調査士は、「不動産の表示に関する登記」を専門とする法務省所管の国家資格者です。表示に関する登記とは、登記簿に不動産の物理的な状況(地目、地積、建物の構造・種類など)を公的に記載するもので、所有者は一定の変更があった際に申請義務を負います。
土地家屋調査士の役割は、土地や建物の現況を調査して必要な測量や図面作成を行ったり、隣接地との境界(筆界)を明らかにしたりすることです。また、不動産の表示登記の申請を所有者に代わって行う役割もあり、これは土地家屋調査士だけに与えられた独占業務です。
このように土地家屋調査士は、技術面と法律面の両方に精通した職業であり、不動産取引や相続、土地利用において欠かせない存在です。
測量士とは?

測量士は国土交通省所管の国家資格で、地形や土地の位置関係を正確に測定・記録する「測量の専門家」です。測量は道路や建物の建設、都市開発、地図作成などの土台となる基盤情報の取得に欠かせません。
測量士の役割は、国や自治体が行う基本測量や公共測量に従事し、測量計画の立案・実施をすることです。航空機や衛星を用いた広域測量にも関与することがあり、スケールの大きなプロジェクトに携わる機会もあります。精度の高い測量結果を得るために、高度な技術力や専門機器の操作スキルも求められます。
このように測量士は、地図や社会インフラの根幹を支える重要な役割を担っており、防災計画や再開発プロジェクトなど社会貢献度の高い分野でも活躍が期待されています。国や地域の未来づくりに関わるというやりがいを感じられる仕事です。
土地家屋調査士と測量士の違いは?
土地家屋調査士と測量士は混同されがちな資格ですが、業務内容や必要なスキルには大きな違いがあります。ここでは、両者の違いを多角的に比較します。
仕事内容の違い
土地家屋調査士の主な業務は、不動産の表示に関する登記に必要な現地調査や測量、図面作成を行い、最終的に登記申請を代理することです。また、地積測量図や建物図面などの作成も業務に含まれます。
一方測量士の主な業務は、測量に関する計画を作成し、実際に測量を行うことです。国や自治体の依頼による公共測量をはじめ、道路・鉄道・建築などの大規模インフラ整備事業に携わることも多くあります。
両者とも測量業務を担うものの、土地家屋調査士は「登記を目的とした測量」、測量士は「空間情報の整備・インフラ整備を目的とした測量」である点が異なります。
必要な知識やスキルの違い
土地家屋調査士には、不動産登記法や土地家屋調査士法、民法といった法律に関する幅広い知識が求められます。土地や建物の表示に関する正確な登記記録を作成するため、法的な判断力が重要となります。また、筆界特定手続や境界をめぐる民事紛争に関わる場面もあり、境界に関する法的理解も必要です。
測量士には、多角測量やGNSS測量、写真測量、水準測量といった専門的な技術や知識が求められます。さらに光波測距儀やドローン、MMS(移動計測車両)など、先端の測量機器に関する操作スキルも必要です。
どちらの職業も現場での正確な作業が求められるため、理論だけでなく現場経験に裏打ちされた実務能力が不可欠です。細やかな計測や誤差の排除といった職人的な感覚も共通して必要とされます。
取得難易度の違い
土地家屋調査士試験は、令和6年度の合格率が約11.0%と難関資格の一つです(※1)。試験範囲が広く、不動産登記の申請方法・民法・筆界・測量など多岐にわたるため、合格には約1,000~1,200時間以上の学習が必要とされています。
一方、測量士試験の令和6年度の合格率は13.0%です。土地家屋調査士試験よりやや高めですが、専門的な測量技術や計算能力が問われるため、難関資格であるといわれています(※2)。測量技術の多様化に伴い幅広い知識が必要となるため、約300~500時間の学習が必要とされています。
両資格とも出題形式や問われる能力に違いがあるため、ご自身のスキルや目的に応じた学習計画を立てることが重要です。独学だけでなく、受験対策のノウハウを知り尽くした指導校や予備校を利用するといった方法も検討してみましょう。
※1 参考:法務省.「令和6年度土地家屋調査士試験の最終結果について」.https://www.moj.go.jp/content/001432182.pdf ,(参照2025-06-16).
※2 参考:国土地理院.「令和6年測量士・測量士補試験の合格者を発表」.https://www.gsi.go.jp/soumu/soumu20240627_00001.html ,(参照2025-06-16).
業界動向の違い
土地家屋調査士の業界ではAIやデジタル技術の導入が進み、図面作成や書類作成の電子化、登記申請のオンライン化が広がりを見せています。また、さまざまな業務支援ツールや電子システムの活用によって、業務の効率化やペーパーレス化も進んでいます。一方で、境界確定や登記に関する法的判断など人間による判断が求められる場面もまだまだ多く、今後も一定のニーズが見込まれるでしょう。
一方測量士業界では、ドローン測量やMMS、3Dレーザースキャン、GIS(地理情報システム)などの新技術が急速に普及しています。これに伴い、作業の効率化が進み、先端機器の操作スキルやITリテラシーを備えた人材へのニーズが高まっているのです。
いずれの業界も、少子高齢化による人材不足が課題となっており、若手人材の参入が期待されています。変化の激しい時代だからこそ、柔軟なスキルと専門性の両立が求められています。
キャリアパスの違い
土地家屋調査士は、個人で独立開業することも可能で、地域密着型の事務所を構えるケースが見られます。経験を積んだ後に法人化して事業を拡大したり、他士業と連携したりすることも可能です。
一方、測量士は企業に所属し、土木コンサルタント会社や建設会社、測量会社などで働くケースが主流です。プロジェクトごとにチームで動くことが多く、現場での調整力やマネジメント力も重要になります。
また、測量士の実務経験を生かして土地家屋調査士を目指す人もおり、ダブルライセンスによってキャリアの幅や選択肢を広げることも可能です。
土地家屋調査士と測量士のダブルライセンスはあり?
土地家屋調査士と測量士の両方の資格を取得することは、制度上可能です。業務内容に共通点が多く、測量や図面作成の技術が双方で生かせるため、ダブルライセンスによる相乗効果が期待できます。
登記に関する業務と公共測量の両方に対応できれば、受注できる案件の幅が広がり、より専門性の高いサービスを提供できるようになるでしょう。
ここではダブルライセンスのメリットや取得順について、詳しく解説します。
ダブルライセンスのメリット
ダブルライセンスを取得する大きなメリットは、登記関連の民間測量とインフラ整備などに関わる公共測量の両方に対応できる点にあります。将来的に独立開業を目指す場合にも大きな強みとなるでしょう。例えば、外注しなくてもさまざまな案件を自社内で完結できるようになり、収益性やクライアントの満足度向上につながります。小規模の事務所であっても、専門性の高い案件を継続して受注できる体制が築けるのも魅力です。
また競合他社との差別化にもつながります。特に地域密着型の業務においては、測量から登記の代理申請までワンストップで提供できる点は、顧客にとって高く評価されるポイントになるでしょう。
ダブルライセンスは、資格の組み合わせによって活躍の場を広げたい方にとって、有効な戦略の一つといえます。
どちらを先に取得するべき?
ダブルライセンスを目指す場合、先に測量士の資格を取得するのが効率的です。測量士または測量士補として登録されている場合、土地家屋調査士試験の午前試験が免除されるからです。両方の資格を取得するならこの優遇措置を活用し、受験の負担を軽減するのが望ましいでしょう。
また測量士試験は、土地家屋調査士試験と比べて出題範囲が技術寄りで、法律科目が含まれません。そのため比較的学習時間が少ない傾向にあるため、最初のステップとして取り組みやすいという利点もあります。難易度の面で不安がある方は、まず測量士補の資格からチャレンジし、実務経験を積みながら測量士・土地家屋調査士へと進む方法もあります。
試験のスケジュールや出題傾向を把握し、ご自身の学習スタイルや生活状況に合わせて、無理のない計画を立てましょう。
まとめ
土地家屋調査士と測量士は、どちらも測量に関わる専門職ですが、その業務内容や必要なスキル、取得難易度には明確な違いがあります。本記事を参考にそれぞれの特性を正しく理解して、ご自身の今後のキャリア選択に役立てましょう。
また、両方の資格を取得するダブルライセンスを目指すことで、登記・公共測量の両分野の知識やスキルが身に付きます。対応領域が広がり、将来的に独立や事務所運営をする際にも大きな強みとなるでしょう。
東京法経学院では、土地家屋調査士・測量士の両資格に対応した講座を提供しており、全国の合格者に占める合格占有率は75.8%を誇ります。実践的なカリキュラムやオリジナルの教材・過去問テキストが充実しており、効率的に学習を進められます。両資格の取得をご検討の方やダブルライセンスの取得をお考えの方は、ぜひWebサイトよりお問い合わせください。土地家屋調査士・測量士試験のエキスパートが資格取得を手厚くサポートします。
コラムの運営会社
株式会社東京法経学院は10年以上にわたり、土地家屋調査士・測量士補・司法書士・行政書士など、法律系国家資格取得の受験指導を行ってきました。
通学・通信講座の提供だけではなく、受験対策用書籍の企画や販売、企業・団体の社員研修もサービス提供しています。
詳細は、各サービスページをご確認ください。
土地家屋調査士試験、測量士・測量士補試験、司法書士試験、行政書士試験、公務員試験


