「土地家屋調査士」は不動産登記において、表題登記に関連する業務や申請代行ができる唯一の専門家です。不動産の登記申請自体は所有者自ら行うことができます。しかし登記申請手続きを滞りなく済ませるためには、不動産登記についての専門知識が必要です。その難しさから個人で登記申請の手続きを行う人は少なく、土地家屋調査士などの専門家に代行を依頼するケースが多いです。
この記事では土地家屋調査士の具体的な業務内容や仕事の流れ、どのような状況で必要とされるのかについて詳しく紹介します。あわせて土地家屋調査士になるための試験や、実際に仕事をはじめるまでに踏まなければならない手順についても解説します。効率的に学習して合格を勝ち取り、土地家屋調査士として活躍してください。
土地家屋調査士とは?
土地や建物の不動産は不動産登記法に基づいて登記簿謄本に登記されます。不動産登記は「表題登記」と「権利登記」から成り立ち、そのうち表題登記を行うことができる唯一の国家資格が土地家屋調査士です。
新しく取得した不動産は、当然ながらまだ登記されていません。表題登記はそのような登記がされていない土地や建物に関して、最初に登記される部分です。表題登記をするにあたり、対象の不動産について調査や測量を行う必要があります。
それには専門的な知識が必要なのはもちろん、測量技術も持ち合わせていなければなりません。不動産登記そのものは所有者が自分で行えるものの、現実的には難しく、専門家である土地家屋調査士が依頼を受けて調査や測量を行い、手続きを代行することが一般的です。
登記の内容 | 不動産登記の内容 | 代行できる専門家 |
---|---|---|
表題登記 | 土地や建物の所在・面積 | 土地家屋調査士 |
権利登記 | 土地や建物の所有者氏名・住所・権利関係 | 司法書士 |
土地家屋調査士の仕事内容
不動産登記の表題登記の申請を代行するといっても、具体的にどのような業務を日々行っているのかイメージするのが難しいかもしれません。この段落では土地家屋調査士の主な仕事内容について、4つの分野をそれぞれ詳しく紹介します。
表示登記に必要な調査・測量
不動産登記の表示登記をするためには、対象となる不動産の形や面積など物理的な情報が必要です。その正確な情報を得るために調査や測量を行う仕事が、土地家屋調査士の中心的な業務です。
登記された情報は法務局で管理される登記簿謄本(登記事項証明書)に記載され、公的な帳簿として誰もが閲覧できます。表題登記はどこにどのような不動産があるのかを示すもので、円滑な不動産取引をするためにも欠かせません。不動産が自分のものであることを第三者に主張するためには、表題登記がされている必要もあります。
それだけ表題登記に記載されている内容は大事なものだということです。土地家屋調査士は、表題登記に対象の土地や建物の状況を正確に反映させるために、調査や測量を行うという大事な役割を担っている職業です。
筆界特定
「筆界」とは不動産登記されている土地の境界のことを指し、この筆界を明らかにするための手続きを独占してできるのも土地家屋調査士です。筆界は不動産登記法によって定められた土地の境界であり、「公法上の境界」ともいわれています。周囲の隣地との間で定められている筆界に囲まれたひとつの土地が登記上の「一筆の土地」です。
筆界によって登記上決まっている境界は、たとえ隣地の人と話し合って了承を得たとしても勝手に変更することはできません。しかし現実には測量や書類作成のミスなどで正しく登記されていない土地や、境界を示す杭がなくなっている土地も多く存在しています。
そのようなケースでは筆界と現況が違っていることも珍しくありません。トラブルを防ぐためにも筆界特定の手続きが必要とされ、土地家屋調査士がその申請を代理で行います。
筆界に関する裁判外紛争解決手続き
実際に筆界が現況と異なっている場合は、紛争に発展することもあります。従来はこうした土地の境界が原因のトラブルが発生した場合、双方の話し合いで解決できなければ裁判で争うしかありませんでした。
裁判で争うとなると解決までに時間がかかってしまううえ、労力も大変なものになるでしょう。そもそも隣地の所有者が不明の場合など、解決に至るのが難しいケースもあります。そこで行われるようになった解決方法が、訴訟手続きによらない「民間紛争解決手続(ADR)」です。
必要な研修を受け、法務大臣の認定を受けた「ADR認定土地家屋調査士」は、筆界が明らかでないことで起こるトラブルにも対応することができます。弁護士とともに相談業務や調停業務を行い、解決のための手続きを行います。
表示登記に関する申請手続きの代行
先述してきた通り、土地家屋調査士は土地や建物の所有者から依頼を受け、表題登記の申請手続きが代行できる唯一の専門家です。申請手続きの代行は、対象となる土地の調査や測量を行うところから、図面の作成、申請書類の届け出までを一貫して担当します。
表題登記の申請を行うと、登記所の登記官がその内容を審査します。特に不備等がなければ登記簿謄本にその内容が記載されることになりますが、まれに「境界線が不明確」などの理由で申請が却下されることもあります。
もし却下された場合は、申請を行った登記官が属する法務局局長に対して不服を申し立てることが可能です。表題登記の申請が却下されることはそれほど多くありませんが、土地家屋調査士はその審査請求手続きの代理も受けることができます。
不動産登記が必要になるときとは?
不動産登記が必要になるケースとしてよくあるのは、以下の5つの状況です。これらの登記手続きにまつわる代理業務は土地家屋調査士だけが請け負えます。
登記の種類 | 依頼人側の状況 |
---|---|
建物表題登記 | 家を新築したとき 建売住宅を購入したとき |
建物表題変更登記 | 建物を増築したとき |
建物滅失登記 | 建物を取り壊したとき |
分筆登記 | 相続や贈与で土地を分割したいとき |
地目変更登記 | 農地等を宅地に変更したとき |
家を新築した際や建売住宅のようにまだ登記されていない建物を購入したときは、1カ月以内に「建物表題登記」をしなければなりません。家を増築した場合はもともとの登記に変更が加わったとして、「建物表題変更登記」を行います。建物を取り壊してその存在がなくなったときも「建物滅失登記」の手続きが必要です。
相続や贈与が発生した場合、一筆の土地を複数の相続人でわけて所有することや、一部を売却しようと考えることもあるでしょう。そのような土地を分割する場合に行うのが「分筆登記」です。ちなみに複数の土地をひとつにまとめる場合は合筆登記を行います。
ほかにも農地から宅地へなど、登記上の地目を変更しなければならないときは「地目変更登記」という不動産登記をする必要があります。
土地家屋調査士の仕事内容の例
土地家屋調査士の具体的な仕事の例として、家を新築するケースをモデルに紹介します。
現地調査:土地家屋調査士はまず現地に出向き、登記記録と現地の状況が合っているかどうか、違うところがあるかを調べます。
家を新築する場合、購入を希望する土地が見つかった際に現地で登記されている記録と現況に違いがないか確認することがあります。建物の完成後には現地を訪れ、実際に建っている建物について位置や構造、床面積などを確認します。
測量:図面の作成に必要な数値を得るため、専用の機械を用いて現況を測量します。
隣地との境界を確定させる:境界を示す杭がないなど境界がはっきりしない土地についてはさらに詳しく測量し、隣地の土地所有者などの関係者立ち合いのもとで境界を確定させます。
必要書類の作成:登記申請に必要な書類の作成を行います。近年では図面作成にCADというソフトを使い、パソコンで作成することがほとんどです。
登記申請:管轄の法務局に作成した書類を提出する方法が一般的ですが、オンライン申請も可能になっています。
依頼者への引渡し:登記書類を依頼者に引き渡して一連の業務は終了です。
土地家屋調査士になるには?
土地家屋調査士の国家資格は年1回開催されており、まずはその試験に合格することがスタートです。この段落では国家試験の概要および、合格後の手続きについて詳しく紹介します。ただし法務省職員は国家試験に関して例外があります。
国家試験に合格する
土地家屋調査士国家試験の概要
受験資格 | 制限なし |
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出願方法 | 各都道府県の法務局または地方法務局の総務課で出願申請書類を提出 |
試験日程 | 筆記試験:例年10月の第3日曜日 口述試験:翌年1月中旬 |
試験内容 | 筆記試験(午前の部・午後の部)および口述試験 |
試験会場 | 全国9カ所(口述試験は8カ所) |
合格発表の日程 | 筆記試験:翌年1月 口述試験:2月 |
※状況によって変更になる可能性もあります。
受験資格
土地家屋調査士の受験資格は特に設けられておらず、学歴や職歴に関係なく誰でも受験可能です。
出願方法
各都道府県の法務局または地方法務局の総務課で受験申請書類が交付されています。(郵送での交付請求も可能)受験申請書に必要事項を記入し、受験料8,300円分の収入印紙を所定の欄に貼り付けます。
写真票と筆記試験受験票、筆記試験の免除を受ける場合はその必要書類もそろえ、法務局または地方法務局の総務課窓口に提出します。法務局および那覇地方法務局の総務課宛てに限り、書留郵便で送付して出願することも可能です。
試験日程
毎年10月の第3日曜日に筆記試験が行われます。午前は9時30分から11時30分まで、午後は13時から15時30分までです。筆記試験に合格した者のみ、翌年1月中旬に行われる口述試験に進むことができます。
試験内容
- 不動産の表示登記にかかわる分野の民法
- 申請手続きおよび審査請求の手続きについての知識
- 平面測量と作図の知識と技能に関する内容
- 土地家屋調査士法第3条第1項第1号から第6号で規定されている業務を行うための知識と能力
筆記試験は1~4までが試験内容の範囲です。口述試験は2と4の分野から出題され、1人当たり15分程度の面接で行われます。
試験会場
筆記試験は東京、大阪、名古屋、広島、福岡、那覇、仙台、札幌、高松の9カ所です。口述試験は那覇を除く8カ所で、筆記試験を那覇で受験した人の口述試験会場は福岡になります。
合格発表の日程および方法
筆記試験の合格発表は試験日の翌年1月上旬、口述試験の合格発表は2月の中旬です。法務局または地方法務局と、法務省のホームページに合格者の受験番号が掲載されます。筆記試験の合格者に対しては口述試験の受験票も送付されます。
土地家屋調査士会名簿に登録する
国家試験に合格しただけでは、まだ土地家屋調査士として業務を行うことはできません。日本土地家屋調査士会連合会の「土地家屋調査士名簿」に登録することで、土地家屋調査士と名乗って仕事を請け負えます。土地家屋調査士名簿への登録料は2万5,000円です。
筆記試験の「午前の部免除」が定石
測量士、測量士補、一級建築士および二級建築士いずれかの資格を有している人については、土地家屋調査士の筆記試験合格者と同等の能力があると判断され、筆記試験の午前の部が免除されます。土地家屋調査士の国家試験においては、受験者の多くが筆記試験の「午前の部免除」で試験に臨んでいます。
上記いずれの資格も持っていない場合は、筆記試験の免除を受けるため、先に「測量士補」の資格を取る人が多くいます。その理由は測量士補の資格試験の難易度が土地家屋調査士試験の午前に行われる筆記試験に比べて低く、勉強しやすいからです。
測量士補の資格を取得するために勉強した内容は、測量が業務に含まれる土地家屋調査士の試験勉強や、土地家屋調査士として将来働く際の実務にも役立ちます。また土地家屋調査士の筆記試験は、同一日の午前と午後という長時間にわたって実施されます。午前の部が免除されることによって、体力や集中力の面で負担が軽くなることもメリットです。
ただし、最近は試験日程の変更により、午前の試験免除が適用されず。ダブルライセンスが取得しづらいケースもあります。試験を受ける前に、午前の部が免除されるかどうか、必ず確認しましょう。
まとめ
土地家屋調査士は不動産登記の表示登記に関連する申請を唯一代行できる専門家です。土地家屋調査士になるためには、毎年1回実施される国家試験に合格する必要があります。また、その専門知識を活かし「建築コンサルタント」として、不動産や建築に関するコンサルタント業務や相談業務を行うことも増えてきています。不動産鑑定士や司法書士、行政書士などの資格をあわせ持ち、さらに広く活躍する方もいます。専門性が高い分、やり方次第では実にさまざまな業務に手を広げていけるのが、土地家屋調査士の魅力でもあります。
東京法経学院は、土地家屋調査士をはじめ、資格試験の合格に向けてさまざまな講座を開設しています。土地家屋調査士試験は「初学者向け」や「学習経験者向け」、「実務者向け」別に通学・通信など複数の講座があるため、自分の知識レベルと状況に応じて選べます。
2019年に実施された土地家屋調査士試験の全国合格者数406名のうち、東京法経学院で学んだ人は191名でした。輩出率は47.0%で全体の半数に迫る勢いです。対象講座は決められていますが、合格を勝ち取って官報に掲載されれば学費が全額返金される制度もあります。
土地家屋調査士になることを考えているならば、土地家屋調査士や司法書士など法律資格の合格指導に定評がある東京法経学院で学ぶことを検討してみてはいかがでしょうか。
コラムの運営会社

株式会社東京法経学院は10年以上にわたり、土地家屋調査士・測量士補・司法書士・行政書士など、法律系国家資格取得の受験指導を行ってきました。
通学・通信講座の提供だけではなく、受験対策用書籍の企画や販売、企業・団体の社員研修もサービス提供しています。