●書籍概要
不動産登記法(表示登記法)は,土地家屋調査士の実務において,その根幹となる法律であり,この資格を目指し,日夜,学習に励まれている受験生の方々においては,まず最初に征服すべき大きな山となっています。しかし,この法律は,本法のほかに,「不動産登記令」,「不動産登記規則」及び「不動産登記事務取扱手続準則(通達)」等の附属法令があり,それぞれ毎年のように改正があります。また,これらの法令を実務で運用する為に「民事局長通達」,「民事局第二課長依命通知」等の先例が発出され,特に,大きな改正時(昭和58年,平成5年,13年,16年,17年)の施行通達は「基本通達」と呼ばれ,さらに,登記実務上で,これらを運用する全国の登記所の登記官が解釈等についての質問を法務省民事局(本省)の担当官が回答する形式の「全国首席登記官会同における質疑応答」や「改正に伴う質疑事項集」も,本省より各(地方)法務局の職員に発出されています。しかし,通常の法令集(小社の「土地家屋調査士六法」も含まれます。)では,その性格上,「基本通達」等を原文のままでしか収録していませんし,先例でもない“事務取扱規程”までを収録することはできないからです。
旧版の問題点は,@平成16年に全部改正された「新不動産登記法」(以下「新法」という。)について,「基本通達」等が収録されていない。A旧法下の「基本通達」,「質疑応答」について,新法しか知らない受験生は,読んでも意味がわからない等が挙げられます。また,土地家屋調査士の全国公開模試の解説書の出題講師よりのアドバイスの一文に,「旧法下の昭和58・11・10民三6400号通達(昭和58年改正の基本通達)を新法の法文で読み替えてみることも学習効果がある。」と書かれてあったり,あるいは「基本通達を読んでも理解できない」という声が多く届くようになりましたことが,本書の企画に結びつきました。
本書は,上記に掲げた問題点を克服して,新法下の「基本通達」及び「質疑事項集」を漏れなく収録して,かつ,旧法下のものを現行法令で表記している唯一の書となりました。
なお,本書は,改訂版として発行いたしましたが,法令の改正があった場合に,不動産登記行政において大切なことは,全国の登記所がその法令を同じように解釈し,同じように登記事務が運用されることであり,そのために「改正基本通達」が発出され,また,立法担当官による「質疑応答」が行われます(以下,これらを「基本通達等」という。)。そして,この法務省の見解ともいうべき基本通達等を知ることは,土地家屋調査士試験の受験生にとっては,基本通達等を素材とする問題を得点するために不可欠なことであり,また,実務家にとっても,登記申請手続を円滑に行うために有意義なことであるといえます。
しかし,平成16年の不動産登記法の大改正により,片仮名文語体の法文が現代語化されると同時に電子申請が導入され,その後さらに地図情報システムの全国展開,電子申請における特例方式の導入,会社法人等番号制度の創設といった法改正が行われたことにより,基本通達等の中には現行法令に適合しないものも散見されるようになり,現行法令の下で学習する受験生や学習した実務家にとっては,基本通達等が読みづらいものとなっているのが実状です。
そこで,主な改訂点として,@基本通達等を現行法令の表現に改めました。A先例を追加いたしました。B平成21年の初版発行以降の法令の改正に伴い,「廃止」「編注〜」「改正〜」「現行〜」といった標記で解説を加えるなどして,新法世代の受験生と実務家でも活用することができるようにしました。
最後に,土地家屋調査士試験の受験生にとっては,基本通達等を素材とする問題を得点するために不可欠なことであり,また,実務家にとっても登記申請手続を円滑に行うために有意義な書であると言えます。本書が東京法経学院の出身者を含め,土地家屋調査士として大いに活躍されている方々,又はそれを夢みて日夜学習に励まれている受験生の方々に「土地家屋調査士六法」と併せて,真に役立つものとして活用されることを祈念しております。
平成29年2月
東京法経学院 編集部