行政書士試験が実施されました!試験成果の検討に、また次年度の手がかりとしてご活用ください!
令和5年度 行政書士試験講評
レクチャー 東京法経学院講師 寺本 康之
東京法経学院講師 笠原 裕明
- [全体講評]
令和6年度行政書士試験の改正を控え,令和5年度行政書士試験の難易度等が注目されていましたが,令和5年度行政書士試験と比較して,民法・商法において基本的知識を問う問題が大幅に増え,合格者平均点がかなり上がる (平たく言えば,かなり易しくなった) と感じました。
そうとは言え,かなり深いところまで学習しないと正解にたどり着くことができない問題 (例えば,問題3,問題18,問題34,問題47及び問題50) も出題されました。
このように,基礎的知識で解ける問題とそうでない問題がある程度はっきりした令和5年度行政書士試験では,@基礎的知識で解ける問題を取りこぼさずに解き,かつ,A記述式問題においても基礎的知識に属するキーワードをきちんと書かれた方 (完答はできなくとも,各問題から10点程度ずつ得点することができた方) が合格の栄冠を勝ち取られるのではないでしょうか。
- [基礎法学]
問題1は,法の欠如に関する問題でした。ある程度学習された方であれば,空欄イに「条理」,空欄ウに「罪刑法定主義」が入ることが分かりますから,選択肢との関係で,正解に達することができると思います。
問題2は,法人等に関する実務的な問題でした。難易度も高いと思います。
ある程度学習された方であれば,少なくとも1問は正解したいところです。
- [憲法]
問題3は,基本的人権の間接的,付随的な制約に関する問題でした。猿払事件判決 (最大判昭和49年11月6日) 等で示された考え方で,行動を伴う表現に用いられるのが一般的です。この知識がないと,本問を解くことは難しいのではないかと思いました。
問題4は,国務請求権というマイナーな分野からの問題でした。落ち着いて論理的に考えられれば,正解に達することができたでしょう。
問題5は,罷免・解職に関する問題でした。ある程度学習された方であれば,内閣総理大臣の地位について学習していると思いますので,正確に達することができたでしょう。
問題6は,国政調査権の限界に関する問題でした。論理的な問題ですので,落ち着いて考えられれば,正確に達することができたでしょう。
問題7は,財政に関する問題でした。ある程度学習された方であれば,正解肢以外の他の選択肢との関係で,正解に達することができたかと思います。
ある程度学習された方であれば,4問程度正解したいところです。
- [行政法]
問題形式についてみると,行政法の一般的法理論,行政手続法,行政不服審査法,行政事件訴訟法及び地方自治法から各3問,国家救済法及び行政法総合から各2問が出題され,例年通りの出題でした。
問題内容についてみると,問題9,問題18,問題22,問題24及び25を除き,基礎的知識を問う問題であると思います。
ある程度学習された方であれば,14問は正解することができそうですので,それから1〜2問程度積み上げて欲しいところです。
- [民法]
問題形式についてみると,総則から1問,物権から2問,債権から5問,親族・相続から1問が出題され,いつも通り債権の問題が多かったといえます。
問題内容についてみると,消滅時効 (問題27),物権変動 (問題28),連帯債務 (問題30),相殺 (問題31) 及び遺言 (問題35) といったある程度学習された方であれば見慣れた問題がある反面,集合動産譲渡担保 (問題29) 及び損益相殺 (問題34) といった受験生の手が回りにくい分野からの出題もありました。また,債権については,売買に関する事例問題 (問題32) 及び契約解除の問題 (問題33) のような分野横断的問題が出題され,債権については,満遍なく基礎的事項の学習が必要であると感じました。
ある程度学習された方であれば,問題34を除く8問は正解することができそうですので,ケアレスミスに注意して欲しいと思いました。
- [商法・会社法]
商法からは1問,会社法からは設立および株式から各1問,機関から2問出題されました。この構成は,令和5年度行政書士試験と同様です。
会計参与と会計監査人の差異 (問題40) 以外は,頻出分野からの出題であったため,取組みやすかったのではないでしょうか。また,問題の内容も基本的知識に属する内容からの出題であり,例年と異なり,問題を解いた受験生の方は,手ごたえを感じられたのではないでしょうか。
ある程度学習された方であれば,5問全問について正解に達することができる問題だったので,あきらめずに,きちんと解いて欲しかったです。
- [多肢選択式]
憲法から1問,行政法から2問出題されました。この構成は,例年どおりです。
問題41の判例は,北方ジャーナル事件最高裁判決という著名な判例からの出題ですが,空欄ア及びウは,悩まれたかもしれません。
問題42及び問題43の空欄は,ある程度学習された方であれば,埋めることができたのではないでしょうか。もっとも,問題43の空欄エについては,「重大」と「明白」をパッと見て,選択肢16を選ぶというケアレスミスをしないように注意してください。
- [記述式]
問題44は,仮の差止めに関する問題でした。「誰に対して」という部分が,仮の差止めの申立てをする機関なのか,それとも,被告を誰にするのかのいずれを問題としているのか,判然としない問題で,受験生の方は戸惑われたかもしれません。
問題45は,抵当権の物上代位に関する条文問題でした。民法372条の準用する304条の要件の問題であり,基礎的知識に属する問題でした。
問題46は,請負契約における契約不適合責任の問題でした。請負契約は,有償契約であり,売買の規定が準用される (559条本文) ことを知っていれば,売買契約における契約不適合責任を思い出して答えられたのではないかと思います。
ある程度学習された方であれば,いずれの問題においても,10点以上,得点を取ることができたのではないでしょうか。
- [一般知識等]
一般知識等では,40%ルールがあるので,最低6問正解しなければなりません。令和5年度行政書士試験でも,令和5年度行政書士試験と同様に,受験生が初めて見るような問題が多かったので,ビックリされたのではないでしょうか。
その中で,問題48及び問題49,問題51〜53,問題58〜60の8問が比較的正解に達しやすい問題でした。その他の問題でも,新聞・ニュース等にとどまらず,資格の専門学校等で積極的な情報収集を怠らなかった方であれば,ある程度対応できる問題 (問題55及び問題57) もありました。
以上
