●書籍概要
本書は,刑法を理解し,司法書士試験の短期合格を目指す受験生のために書かれた刑法の基本書であり,次に述べるような特長がある。
1.初学者,独学者にも理解できるように書かれていること
今までの司法書士試験の基本書は,予備校の講義を受けることを前提に書かれていたり,記載が不親切であったりで,初めて学習する者がそれだけで
理解できるようなものではなかった。逆に,わかりやすく書かれているものは入門的なもので,到底司法書士試験の難関に立ち向かえるだけのレベルに
は達していないものばかりであった。
本書では,司法書士試験に合格できるレベルを保ちながらも初学者の方が難解といわれる刑法を理解できるように噛み砕いて説明した。わかりにくいところには,《講義》のコーナーを設け,私が普段の基本講義で説明しているように記述した。あたかも講義を聴いているかのように理解できるであろう。また,講義の板書風の図を多用したのもこの趣旨である。
また,刑法の学習で重要なのは,その理論を事例にあてはめたうえで結論を出すことができることである。そこで,本書では,[例題]として,事例をできる限り盛り込み,その思考方法が身につけられるように工夫した。[例題]では立ち止まって考えてみてほしい。
2.刑法の本質論(基本)から説明がされていること
刑法の学習では,基本となる理論を理解することが重要である。その理論をもとにして,条文・判例の知識を積み重ねていく必要がある。
そこで,本書では,初めに「刑法入門編」を設け,その全体像を分かるようにした。全体像を理解したうえで,個々の知識をその体系の中に位置付けていくことが重要である。また,個々の説明についても,刑法の本質にさかのぼり,そこからすべての説明を有機的に関連づけ,説明を一貫させた。これにより,自然と刑法の考え方が身につき,知識の一つひとつがつながりあるものとして理解できるので,理解しやすく,忘れにくくなるだろう。また,そのことで,学習の効率化を図ることができ,民法や不動産登記法などの重要な科目に力を回すことができるだろう。
そして,刑法各論の分野では,刑法総論の分野で身につけた理論を応用して考えることが求められるが,本書では参照ページを示すことで,これを容易にした。
3.司法書士試験のために必要十分な情報量が提供されていること
いくらわかりやすく書かれていても,合格レベルに達していないのでは意味がない。また,情報が多すぎては短期合格のためにはかえって害になるだろう。本書では,司法書士試験に合格するために必要十分な情報量が提供されている。合格への最短距離を示したものであり,安心して使ってほしい。
なお,刑法各論の分野では,今まで未出題の犯罪からの出題も目立つので,出題可能性のある犯罪については,できる限り採りあげ説明を加えた。刑法はいわゆるマイナー科目であり,基本書を何冊も用意するのは困難であり,本書に必要な情報を集約しようとした意図もある。答練や問題集で学習を進める場合において,本書は辞書としても機能するであろう。
その分,情報量が多くなっているが,メリハリの付いた学習を可能にするため,重要度を☆の数で示した。〈☆☆〉がつけられている犯罪は,試験に頻出される犯罪であり,最重要なものである。〈☆〉がつけられている犯罪は,頻出とはいえないが試験で出題される可能性が高く,高得点を取るためには押さえておきたいものである。☆がつけられていない犯罪については,試験で出題される可能性は低いがないとはいえないので掲載したものである。余裕があるときに,一通り見ておけば足りる。なお,本書に掲載されていない犯罪もあるが,試験対策上は無視していいものである。
刑法の学習はおもしろい。パズルを解いているような楽しさがある。また,司法書士試験で出題される他の法律とは関連性も少なく,毛色が異なる科目でもある。したがって,刑法の学習は,司法書士の学習における気分転換となる。他の科目で行き詰ったときの一滴の清涼飲料水となるはずである。他の科目の気分転換として楽しみながら学習してほしい。効率的な学習ができるはずである。ただし,あまり深入りしてはいけない。あくまでも,重要なのは民法や不動産登記法などであり,刑法はそれらの学習の気分転換のつもりで学習することがポイントである。
なお,ここで言っている刑法の面白さというのは,論理面つまりパズルとしての面白さのことである。刑法の学習のテーマは犯罪であり,本書の中でも普通に人が殺されたり強姦されたりする。テーマとしては非常に重く,具体的なイメージを抱いてしまうと憂鬱になってしまう。この点については,パズルとしてある程度割り切って考えてしまうことが大切である。推理小説を読む場合において,殺人がテーマになっていても,犯人は誰かというパズルを楽しむのと同じである。
最後になるが,本書は,司法書士試験の刑法において,必要となるものがすべて提供されている。刑法に関しては,これ一冊で十分といえる。あとは,過去問集で知識をブラッシュアップしていけばよい。
司法書士試験は難関であり,受験生はそれぞれの思いで挑戦していると思う。非力ではあるが,そのような受験生の一助になればとの思いで本書を執筆した。本書を利用して,短期合格を勝ち取っていただきたい。健闘を祈る。
著者 森山和正