▼序章 満天の星の下で
やわらかく真っ白な雪のベールに包まれた木々が、満天の星々に応えるかのようにきらきらと輝いている。どこまでも続くかのような真っすぐな雪道は、まるで若き二人のために演出された花道のように雪明かりに映し出されている。
そんな雪道を、今まさに二人のうら若き男女が何げなく通り過ぎて行った。
二人は一見、互いに見知らぬ者どうしのように、まるで偶然に居合せたかのように見えたが、突然そのうちの少女は走り出し、まもなくして少年のほうに向きを変えると、今度は後ずさりしながら軽快に跳ねるように歩いてゆく。
その少女の口からは微かに歌声さえも聞こえてくる。少年は突然の彼女の動作に一瞬戸惑ったが、すぐさまに足取りも軽く自然のまま彼女の歩調に合わせてついて行く。
北国・北海道の冬はみごとな冬の芸術を創り出す。心までもが、こんなに純粋に表出してしまうのであろうか。遠くの家の窓からクリスマスツリーの明かりが庭の木々に映っては消えてゆく。二人は、そのまま雪のベールに覆われた街路樹と満天の星々に挟まれるかのように、道の向こうへと消えていった。 |
少年の名前は樋口久、小学五年生である。そして偶然に居合わせたかのような少女は久の級友であり、この日はクリスマスパーティーの練習会のため、二人は遅くまで練習しての帰り道だった。
久はほのかに彼女に心をひかれていたが、彼女もいくぶん久に関心はあったようである。
それというのも彼はクラスでも人気者であり、とんち、すなわち機智に富んでいたからであった。それでニックネームには「とんちばかせ」とつけられていたが、博士ではなくばかせ というところが彼のユニークさを象徴していた。
彼は小学生にもかかわらず、すぐ大人の仲間に入っては討論したり、何にでも興味を示し、さまざまな本を読んでは、そのなかの興味の持てる部分をノートに書き取り、自分なりの百科事典を作ってしまうという、まさしく博士ならぬばかせ と呼ばれるにふさわしいキャラクターであった。
この物語は、久が本物の博士になるその素質が培われたであろう少年時代の日々を旅するものである。
|