本書は、不動産鑑定士試験短答式試験の「不動産の鑑定評価に関する理論」の問題について、主として不動産鑑定評価基準及び不動産鑑定評価基準運用上の留意事項をもとに解説(説明)したものである。「不動産の鑑定評価に関する理論」の理解に必要な事項については、著書、資料により内容を補足している。
平成21年8月28日改正の不動産鑑定評価基準、平成22年3月31日改正の不動産鑑定評価基準運用上の留意事項にもとづき、平成18年及び平成19年の試験問題は、改正部分を修正している。
引用著書、資料の略記例は次のとおりである。
不動産鑑定士 山田哲雄
発行年月: 2011年11月
形態:デジタルデータ(PDF)
ページ数: 434p
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本書の構成について、平成23年の試験問題をもとに具体例をあげれば次のとおりである。
平成23年
〔問題1〕土地の特性と不動産の特徴に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1) 土地は自然的特性として「永続性」を有しているが、建物には一定の経済的残存耐用年数がある。したがって、土地残余法による収益価格を求めるときは永久還元式を、建物残余法による収益価格を求めるときは有期還元式を、それぞれ適用することが望ましい。
(2) 土地は、自然的特性として「不増性」を有しているため、他の財と比較して供給の価格弾力性が大きい。
(3) 土地は、人文的特性として「併合及び分割の可能性」を有している。土地の分割の例として、大規模地を区画割りすること、高圧線架設目的で区分地上権を設定すること、複数棟の建物の所有目的で一団の土地に係る借地契約を結ぶこと、1棟の建物の所有目的で1区画の土地に係る借地契約を結ぶこと等が挙げられる。
(4) 不動産は、特定の自然的条件及び人文的条件を与件として利用され、その社会的及び経済的な有用性を発揮する。したがって、都市計画道路の計画決定により利用が著しく制約される土地(都市計画法第53条の建築制限を受ける土地)については、通常、宅地としての有用性を認められない。
(5) 不動産は、他の不動産とともに用途的地域(近隣地域)を構成し、その地域との関係や地域内の他の不動産との関係を通じて、価格が形成される。したがって、取引事例比較法の適用に際し、近隣地域に属する取引事例があるときは、その事例を他の事例より優先して採用しなければならない。
正解 (1)、(2)、(4)、(5)は明らかに誤りである。
問題は(3)の内容である。
(1) 誤り。
土地残余法は、土地及び地上に想定する建物等を一体として賃貸事業を営むことを前提に、総収益、総費用及び純収益を把握し分析することにより土地価格を求めるものであり、賃貸事業におけるライフサイクルを明確にした上で検討する必要がある。
賃貸事業におけるライフサイクルとしては、更地に@賃貸用建物を建築し、A同建物を賃貸し、B建物の経済的耐用年数満了時に取り壊して更地化するという@からBまでの一連の流れを一ライフサイクルとしてとらえ、このライフサイクルを繰り返すことにより賃貸事業が永久に続くものと想定する(平成6年9月国土庁土地鑑定委員会「収益還元法(新手法)について」より引用)。
このライフサイクルの繰り返しを前提にすれば、建物残余法も永久還元となる。
有期還元法については、不動産が敷地と建物等との結合により構成されている場合において、その収益価格を、不動産賃貸又は賃貸以外の事業の用に供する不動産経営に基づく償却前の純収益に割引率と有限の収益期間とを基礎とした複利年金現価率を乗じて求める方法と規定している。
土地残余法、建物残余法については、平成18年問題2参照。
(2) 誤り。
土地は、自然的特性として不増性(いわゆる総量不変)を有しているため、他の財と比較して価格の変動に対して弾力性が小さい。
(3) 土地の人文的特性である併合及び分割の可能性について、「解説」21頁では、次のように説明している。
つぎは「併合及び分割の可能性」である。土地は、これを利用する人間の便宜に適するように区画されて利用されるものであるが、いった区画された土地も、必要に応じて合筆、分筆等を行なうことにより、容易に併合し、または分割することが可能であり、かつ、併合、分割を行なった後も不動産としての効用を保ちつづけることができるものである。
出題者は、この「併合及び分割の可能性」という特性の内容を、権利利益を含めて解釈している。土地の分割の例として、大規模地を区画割りすることは、前述の説明どおりである。
高圧線架設目的で区分地上権を設定することについては、区分地上権の設定を目的とする場合の鑑定評価において不動産の分割及び併合が生ずるということを前提にしている。高圧線架設の場合は一般的には、地役権であろう(平成22年問題9の(注)参照)。区分地上権に準ずる地役権は、特別高圧架空電線の架設等を目的として地下又は空間について上下の範囲を定めて設定されたもので、建造物の設置を制限するものとされている(「財産評価基本通達」、27‐5)が、この「財産評価基本通達」は試験範囲には含まれていない。区分地上権とは、工作物を所有するため、地下又は空間に上下の範囲を定めて設定された地上権をいう。
複数棟の建物の所有目的で一団の土地に係る借地契約を結ぶこと、1棟の建物の所有目的で1区画の土地に係る借地契約を結ぶことについては、借地契約により、土地に借地権と底地という権利利益が併存することをもって、所有権が分割されるという解釈なのであろう。
借地権と底地とが混同した場合には更地又は建付地となるが、借地権の価格と底地の価格との合計額は、借地条件、借地権と底地の市場性などの反映から必ずしも更地又は建付地としての価格とはならない。したがって、1棟の建物の所有目的で1区画の土地に係る借地契約を結ぶことは、経済合理性に反する不動産の分割を前提とするものになるが、このようなことはない。
(3)は誤りである。
(4) 誤り。
次のような建築制限を前提とした有用性はある。
都市計画道路の計画決定で、都市計画道路予定区域に入っている土地は、都市計画法第53条の建築制限を受ける。
都市計画施設の区域又は市街地開発事業の施行区域内において建築物の建築をしようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない(都市計画法第53条)。
都道府県知事は、この許可の申請があつた場合において、当該建築物が次の要件に該当し、かつ、容易に移転し、又は除却することができるものであると認められる場合には、許可をしなければならない。
階数が二以下で、かつ、地階を有しないこと。主要構造部(建築基準法第二条第五号に定める要構造部をいう。)が木造、鉄骨造、コンクリートブロツク造その他これらに類する構造であること(都市計画法第54条)。
(5)誤り。
近隣地域の事例を他の事例より優先して採用しなければならないということは規定されていない。近隣地域に属する取引事例と類似地域等に属する取引事例いずれも、取引事例の収集、選択要件を満たすものであれば採用するのが基本である。
平成23年
〔問題16〕標準的使用が戸建住宅の宅地地域において、指定建ぺい率60%、指定容積率200%、第一種住居地域にある幅員10mの道路に接面する長方形の2,000uの更地の鑑定評価を依頼された。取引事例比較法において選択すべき取引事例に関する次のイからホまでの記述のうち、正しいものをすべて掲げた組み合せはどれか。
(注)「指定建ぺい率」及び「指定容積率」とは、それぞれ都市計画で定められた建ぺい率及び容積率である。
イ 対象不動産の最有効使用をマンションと判定した場合は、マンションの立地が見込まれる近隣商業地域(指定建ぺい率80%、指定容積率300%)にある幅員8mの道路に接面する長方形の3,000uの更地の取引事例を採用することができる。
ロ 対象不動産の最有効使用を郊外型の大規模小売店舗と判定した場合は、倉庫や店舗が混在する準工業地域(指定建ぺい率60%、指定容積率200%)にある幅員20mの道路に接面する長方形の5,000uの倉庫及びその敷地の取引事例に配分法を適用して取引事例として採用することができる。
ハ 地域的な事情により取引事例が極度に少ない場合は、同一需給圏外の戸建住宅が建ち並ぶ第一種住居地域(指定建ぺい率60%、指定容積率200%)にある幅員10mの道路に接面する長方形の2,000uの更地の取引事例を採用することができる。
ニ 対象不動産の最有効使用を分割利用により戸建住宅と判定した場合は、類似地域内の戸建住宅と共同住宅が混在する第一種中高層住居専用地域(指定建ぺい率60%、指定容積率200%)にある幅員6mの道路に接面する長方形の1,000uの共同住宅及びその敷地の取引事例に配分法を適用して取引事例として採用することができない。
ホ 近隣地域の周辺地域に存する小売店舗が建ち並ぶ近隣商業地域(指定建ぺい率80%、指定容積率300%)にある幅員6mの道路に接面する長方形の200uの更地の取引事例は、用途的地域が異なるためいかなる場合であっても取引事例として採用することができない。
(1) イとロ
(2) ロとハ
(3) ロとホ
(4) イとハとニ
(5) ロとニとホ
正解 イとロは正しい。ニが誤りならば正解は(1)であるが、試験案内で告知されている試験範囲としての「基準」、「留意事項」をもとにすればニは正しい。この問題に正解はない。
イ 正しい。
対象不動産(幅員10m道路に接面する2,000uの更地、60%、200%)の最有効使用(マンション)が標準的使用(戸建住宅)と異なる場合等において同一需給圏内の代替競争不動産に係るものを選択することができる。
この場合において選択する同一需給圏内の代替競争不動産に係る取引事例等は、次に掲げる要件に該当するものでなければならない。
対象不動産との間に用途、規模、品等等からみた類似性が明確に認められること。
対象不動産の価格形成に関して直接に影響を与えていることが明確に認められること。
戸建住宅地域において、近辺で大規模なマンションの開発がみられるとともに、立地に優れ高度利用が可能なことから、マンション適地と認められる大規模な画地が存する場合に該当する。
ロ 正しい。
対象不動産(幅員10m道路に接面する2,000uの更地、60%、200%)の最有効使用(郊外型の大規模小売店舗)が標準的使用(戸建住宅)と異なる場合等において同一需給圏内の代替競争不動産に係るものを選択することができる。
住宅地域において、幹線道路に近接して、広域的な商圏を持つ郊外型の大規模小売店舗が存する場合に該当する。
ハ 誤り。
同一需給圏外の取引事例は採用しない。
ニ 正しい。
更地の鑑定評価において、自用の建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格が規定されている。配分法を適用する場合の自用の建物及びその敷地の取引事例は敷地が最有効使用の状態にあるものを採用する。共同住宅及びその敷地という類型は「基準」には規定されていない。
また、共同住宅及びその敷地というのは自用の建物及びその敷地ではない。
ニは、「共同住宅及びその敷地の取引事例に配分法を適用して取引事例として採用することができない。」という表現になっている。
更地の鑑定評価で、配分法を適用することができる共同住宅及びその敷地とはどのような建物及びその敷地の類型なのか。建物が賃貸借に供されている共同住宅及びその敷地であれば、配分法を適用して更地に関する事例資料を導出することはできない。
イとロとニを正しい組み合わせとする選択肢がないということは、ニが誤りということであるが、「基準」、「留意事項」でニの内容が誤りであることを指摘することはできない。
この問題と関連のある問題として平成20年問題39のニがある。これは次のとおり。
平成20年問題39ニ
繁華性の高い普通商業地域内にある自用の建物及びその敷地の鑑定評価に当たって、建物を取り壊すことが最有効使用と判断した。土地の比準価格を求めるに際し、近隣地域内で直近に行われた貸し店舗ビルの取引が4件あり、それぞれ取引内容の概要が分かったので配分法を適用して取引事例を作成し、この4つの取引事例をもって比準価格を試算した。
これの正誤については、平成20年問題39参照。
自用の建物及びその敷地の鑑定評価で貸し店舗ビル(貸家及びその敷地)の取引事例を採用すること、更地の鑑定評価において共同住宅及びその敷地という類型の取引事例を採用することなどは「基準」には規定されていない。
ホ 誤り。
近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産について収集した取引事例等の大部分が特殊な事情による影響を著しく受けていることその他の特別な事情により当該取引事例等のみによっては鑑定評価を適切に行うことができないと認められる必要やむを得ない場合には、近隣地域の周辺地域に存する不動産に係るものを選択することができる。